展覧会レビュー エル・グレコ展 その4

前回の続きです。
 
同展覧会の展示作品の中で個人的に非常に面白かったのが『聖母を描く聖ルカ』(1563-65)年です。この作品は、配布されている出品リストでは「No.2」ですが、展覧会全体構成では中間あたりに展示されてます。
 
この作品は、今回の展示作品の中でも珍しいテンペラ画です(卵黄などの乳化する物質を混ぜた絵の具で描かれた絵画をテンペラ画といいます)。エル・グレコは、1567年にギリシア(クレタ島)からイタリアへ渡りますから、それ以前に制作されたようです。どのような作品というと、前述の題名のままですが、ビザンティン美術のイコン(聖母)を描いている画家(聖ルカ)が描かれています。イコンとは、礼拝用の画像を意味します。特に板絵のようなものが多いです。個人で持ち運びが出来るようなイコンもあります。
 
ちなみに、ビザンティン美術とは?簡単に説明します。ローマ皇帝コンスタンティヌス帝が330年に都をローマからコンスタンティノープルに移動し、後に東ローマ帝国として1453年にオスマン・トルコによって滅亡されるまで栄えました(コンスタンティンノープルは、今のイスタンブールのあたりです)。美術史では、この長い間に栄えた美術をビザンティン美術といいます。そして、ビザンティン美術は、ヴェネチア共和国を含む周辺諸国にも影響を与えていました。その名残は、東ローマ帝国滅亡後もオスマン・トルコの勢力を逃れたヴェネチアを含め各国で、キリスト教美術の遺産として残っていたはずです。
 
エル・グレコの生まれたクレタ島は、当時ヴェネチア共和国の統治下でしたので、彼がイタリアへ渡る前に、ビザンティン美術様式のイコンを描いていていた事実も不思議ではありません。しかし、今回のような彼のテンペラ画を私は初めて見ました。ビザンティン美術というと、ヨーロッパの中世に見られるような、古典的な遠近法やバランスを無視した平面的な構図が特徴です。この作品は、まさにそれで、今回のエル・グレコの作品群の中でも異色です。
 
この『聖母を描く聖ルカ』をみていると、エル・グレコがクレタ島からイタリアへ渡り、ラファエロのようなルネサンスの巨匠の作品を学んだとしても、ビザンティン美術様式のイコンを制作していた彼の経験は、スペインへ渡った後の彼の画風に多少なりとも影響を与えたのではないかと推測出来るような気がしました。あくまで推測の範囲ですけれども。
 
次回は、同展覧会の中でも素晴らしい展示作品が多いエル・グレコの肖像画についてお話してみたいと思います。
 
では、今日はこの辺で。
 

エル・グレコ展
会期 2013年1月19日(土)~ 4月7日(日)
会場 東京都美術館企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
開室時間 9:30~17:30(金曜は20:00)
入室は閉室30分前まで 
閉室日 月曜日

展覧会関連サイト
エル・グレコ展公式ページ
http://www.el-greco.jp/index.html