展覧会レビュー エル・グレコ展 その5

エル・グレコ展の展示会場に入ると最初に目に飛び込んでくるのが出品リストNo.1 「芸術家の自画像」(1595年)です。エル・グレコの自画像と言われています。彼の神秘主義的な宗教画が好きな人にとっては、意外な作品でしょう。まるで人間の内面まで描こうとする表現は、写実的でもあり、モダンです。極端かもしれませんが、近代のリアリズム(写実主義)の先駆的作品と言ってもよいかもしれません。この作品が19世紀に描かれたといっても不思議ではない気がします。聖職者や知識人達の肖像画を多く描いていたエル・グレコ。この作品の後も鋭い観察力と表現力がにじみでるような肖像画が並びます。その中でも作品リストNo.3 「修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像」(1611年)は、聡明な人間性が伝わってくるような傑作です。

また、出品リストNo.5 「白貂の毛皮をまとう貴婦人」(1577-90年) は、美しい貴婦人がこちらを見ています。同展覧会の解説によれば、このようにはっきりと鑑賞者を見据えるような人物像が描かれる事は当時としては珍しかったそうです。抜けるような白い肌に赤い頬、彼女が身に付けた白貂(しろてん)の毛皮の質感や指輪の繊細な表現、ルネサンス絵画と比較すると、どこか異なる写実的な表現は、彼の他の肖像画と同様に近代絵画と近いものを感じました。

エル・グレコの作品は、前回お話したようなマニエリスムの要素を含む宗教画も多いのですが、これらの肖像画をみていると、神秘主義あるいはマニエリスムというのは、彼のある一面であり、実は現実と非現実の両方を自由に行き来出来るようなアーティストだったのではないかと思いました。あるいは、現実を忠実に描けるからこそ、非現実を視覚化出来たのではないか。一般的に美術史的視点は、時代や画家の作風をパターン化して理解しようとするのですが、エル・グレコに関しては、彼の中に表現者として幾つもの顔があるようで、彼を単に「神秘主義」あるいは「マニエリスム」の画家と呼ぶ事は難しいですね。

では、今日はこの辺で。

エル・グレコ展
会期 2013年1月19日(土)~ 4月7日(日)
会場 東京都美術館企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
開室時間 9:30~17:30(金曜は20:00)
入室は閉室30分前まで 
閉室日 月曜日

展覧会関連サイト
エル・グレコ展公式ページ
http://www.el-greco.jp/index.html