展覧会レビュー エル・グレコ展 その6

今回のエル・グレコ展のバラエティー豊かな出品作品を鑑賞しているうちに、エル・グレコという画家は、肖像画では写実的に宗教画では神秘的にと、自由奔放に彼独自の芸術表現を志していたのではないのかと推測したくなります。しかし、エル・グレコ本人は、彼なりの芸術表現の法則のようなものを模索していたようです。

今回の展覧会では、エル・グレコのメモの走り書きが紹介されています(現物は出品されていません)。そのメモ書きの内容は、彼の芸術論。しかもそのメモが残されていた書物が面白い。まずは、ウィトルウィウスの『建築十書』にエル・グレコ本人と思われる走り書きで、芸術表現における人体の比例について述べられています。

ウィトルウィウスは、紀元前1世紀のローマの建築家でした。彼の書いた『建築十書』は、古代ギリシア建築に影響を受けた古代ローマ建築の設計、技術、建築美学などを述べた現存する最古の建築書と言われています。この『建築十書』は、写本として長い間知られていたのですが、ルネサンスの学者がその写本に再注目し、15世紀ローマではじめて印刷されます。そしてこの定本が、エル・グレコが所有していた1556年ヴェネチィアで出版されたダニエル・バルバロの注釈本でした。今でも古代建築史の主要文献の1つですが、エル・グレコが建築のバランスの重要性を説いている理論派のウィトルウィウスの本を読んでいたとは驚きました(『ウィトルーウィウス 建築書』で翻訳本もあります)。

また、ジョルジョ・ヴァザーリの『芸術家列伝』のページにもエル・グレコ本人と思われる書き込みがあるそうです。ヴァザーリは、16世紀のイタリア人のアーティストでした。その活躍は絵画ばかりでなく建築まで及んでいたのですが、美術史家でもありました。彼の書いた『芸術家列伝』は、チマブーエから彼本人にいたる300年間に活躍した美術家達の伝記です。ラファエロ、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチのルネサンスの巨匠達も含まれており、今でも美術史では主要文献の1つです(複数の翻訳本あり)。ウィトルウィウスの『建築十書』にしてもヴァザーリの『芸術家列伝』にしても、エル・グレコは、正統派の芸術理論を読んでいたわけです。それであの『無原罪のお宿り』を描くとは。。。

というわけで、同展は、構成にしても出品作品の内容にしてもレベルが高く意外な発見が多かった展覧会でした。

では、今日はこの辺で。

エル・グレコ展
会期 2013年1月19日(土)~ 4月7日(日)
会場 東京都美術館企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
開室時間 9:30~17:30(金曜は20:00)
入室は閉室30分前まで 
閉室日 月曜日

展覧会関連サイト
エル・グレコ展公式ページ
http://www.el-greco.jp/index.html