フランシス・ベーコン展 展覧会レビュー その2

前回の続きです。フランシス・ベーコンの代表作に教皇のシリーズがあります。今回の東京近代美術館で開催されている「フランシス・ベーコン展」では、出品リスト作品No.8『叫ぶ教皇の頭部のための習作』(1952年)がその一例です(*1)。カトリック教会のトップである教皇が不気味な姿で叫んでいるショッキングな作品です。また、ベーコンは、ベラスケスの『教皇インノケンティウス10世の肖像』(1650年)をもとに45以上の作品を描いてたそうで、作品No.11『教皇のための習作』(1961年)は、その一例です。ちなみに、ベラスケスは、17世紀スペイン絵画を代表する画家ですが、ローマに滞在していた時に、この『教皇インノケンティウス10世の肖像』を描き、この作品はローマのパラッツォ・ドリア・パンフィーリ(ドリア・パンフィーリ美術館)に現在所蔵されています。

同展覧会でこれらの作品を観ている時に、隣の部屋から英国英語が聞こえてきました。これは2005年に撮影されたドキュメンタリーフィルム『BACON’S ARENA』からの映像の1部(オリジナル95分からの3分の映像)で、ベーコン本人の声でした(*2)。その中でインタビュアー(多分、美術評論家デイヴィッド・シルヴェスター)が、ベーコンにローマでベラスケス(の『教皇インノケンティウス10世の肖像』)をみたことがあるかと聞くシーンがあります。その質問にベーコンが何と答えたか。「ない。恐怖心がある。」と言った後、「ベラスケスの作品を冒涜した後に本物をみたくない」と言ったのです。また、このベラスケスの作品に完璧に執着していたとも言っていました。なるほど。ベラスケスの『教皇インノケンティウス10世の肖像』も、当時としては斬新な肖像画だったと思うのですが、現代の目からみれば正統派の肖像画です。それをこれほどまでにデフォルメして描いてたベーコンですが、教皇(カトリックの象徴)よりもベラスケス(の作品)を冒涜することが怖かったようですね。

同展覧会の作品解説よると、ベーコンはキリスト教に興味があったのではないかと推測されていました。私の印象では、(宗教の価値観は個人それぞれですが)同じキリスト教でも各宗派の価値観は、日本で考えられている以上に独立しています。とくにイギリス(イングランド)は、16世紀からカトリックと分離して、独自のキリスト教を信仰しています。そういえば、私がロンドンにいた頃、バチカンの枢機卿へ手紙を出す機会がありまして、ロンドン中心にある大きな郵便局の窓口の担当者達が「バチカン」という単語さえ知らなくて苦労したことがありました。教養とかそういうレベルではなく、単に無関心なんだなと思いました。ベーコンの信仰に関しては、私は詳しくありませんが、英国人の両親を持ったベーコンがローマン・カトリックのトップ(教皇)をあそこまでショッキングな表現で描ける真意はわかりません。しかし、(言い方は悪いかもしれませんが)「正統派の英国人」が多く住む高級住宅街のサウスケンジントンにアトリエを構えていたあたり、ベーコンは、英国の中でもかなりこだわりがある「英国人」だったのかなとも思いました。もちろん、これも個人的見解ですけれども。

では、今日はこの辺で。

*1 この作品は、下記のフランシス・ベーコン展特設ホームページで見ることが出来ます。

*2 『BACON’S ARENA』は、DVD『出来事と偶然のための媒体 BECON’S ARENA 』という題名で日本で5月27日より発売されます。東京近代美術館のショップなど都内数ヶ所で先行販売中。

フランシス・ベーコン展
会 期 2013年3月8日(金)‒ 5月26日(日)
会 場 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
開催時間 午前10時 ‒ 午後5時(金曜日は午後8時まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日(ただし4/8、4/29、5/6は開館)、5/7

展覧会関連サイト
フランシス・ベーコン展特設ホームページ
http://bacon.exhn.jp/