「もののあはれ」と日本の美 サントリー美術館 展覧会レビュー

サントリー美術館で開催中の「『もののあはれ』と日本の美」展に行ってきました。

言うまでもなく、今回の展覧会のキーワードは「もののあはれ」です。しかも「あはれ」というのが重要でした。同展覧会の公式サイトでも、その点について以下のような説明がありました。

「あはれ」は、「哀れ」という漢字を当てると、その語感は何か物悲しく儚いイメージに偏るが、本来は、賛嘆や愛情を含めて、深く心をひかれる感じを意味していたとされる(*1)。

私も「もののあはれ」とは、「ものの哀れ」と勝手に想像していたので、哀しいテーマの作品が多く出品されているような先入観を持ってしまっていました。実際は、「もののあはれ」を表現した季節感のある作品が充実していました。日本文学が詳しいとより楽しめるかもしれませんが、単に美しいものを鑑賞するだけでも十分にありだと思います。

江戸時代の学者本居宣長(もとおり・のりなが 1730~1801)が、「もののあはれ」の概念について著作『紫文要領(しぶんようりょう)』で述べていていることから、同展覧会では本居宣長をキーパソーンとして紹介していました。ちなみに、この『紫文要領』(1763)の稿本も今回出品されています(作品No.7)。また、本居宣長が「ものあはれ」を見事に表現している文学作品として『源氏物語』を例に出していることから、『源氏物語』関連の出品作品もありました。

今回出品されていた「もののあはれ」を季節の移り変わりや月の満ち欠けを通して表現した作品群は、日本ならではの美の表現でした。その中でも、工芸品が意外と良かったです。私的に好きだったのが、仁阿弥道八作『色絵桜楓文透鉢』(江戸時代、19世紀)でした(*2)。鮮やかな色彩の桜と紅葉が内と外に力強くに描かれています。このように陶磁器に桜と紅葉を描いた色絵を雲錦模様(うんきんもよう)と呼ぶそうです。桜と紅葉って同じ季節だったかなと一瞬思いますが、美しければよろしいのです。鉢の口縁(こうえん)つまり口の縁の部分は、桜と紅葉の形に輪郭がとられています。豪華で見事な鉢でした。多分、この鉢を見て「わぁ、きれい」という私の気持ちが「あはれ」なのでしょうね。桜も紅葉も季節の変わり目を美しい形で我々に伝えてくれる植物ですから、そういう意味でも「もののあはれ」な作品なのでしょうか。深いですね。

なお、展覧会期間中、1部の展示作品の入れ替えがあります。出品作品の中でお目当てがあれば、事前に美術館にそれらの展示期間を確認して来館されることをおすすめします。

では、今日はこの辺で。

*1 サントリー美術館ホームページのこちらのページより引用しました。
*2 同ホームページのこちらのページに同作品の画像があります。

「もののあはれ」と日本の美 
会場    サントリー美術館 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
会期    4月17日(水)~6月16日(日)
※作品保護のため会期中、展示替をおこなう場合があり。
※各作品の展示期間については、要注意。
開館時間    10:00~18:00 (金・土は10:00~20:00)
※いずれも最終入館は30分前まで
休館日    毎週火曜日

展覧会関連サイト

サントリー美術館

山口晃展 そごう美術館 展覧会レビュー

先日、そごう美術館で開催されている「山口晃展」へ行ってきました。副題が「付(つけた)り澱(おり)エンナーレ老若男女ご覧あれ」。なお括弧内の振り仮名は、当方がご参考までに付け足しました。お恥ずかしながら、私には読めないです。それにしても難しい漢字が多かった。

山口晃氏といえば、集英社の雑誌『SPUR』(2013年5月号、p.413)に山口氏の「ワンだふるアートワールド」というコーナーがありまして、第二回目の「柴乙女ポチと画家・山口晃さんが行く『東京国立博物館』」が最近では面白かったです。同3月号の第一回目は『会田誠展』を柴犬の女の子ポチが1匹で行くという話で、これも良かった。隔月でもよいからシリーズ化してほしいです。同展覧会では、その柴乙女ポチと山口画伯が立っている愛らしいイラストと手書きの「ご挨拶」が迎えてくれます。これをみて可愛い展覧会だなあと思ったのは最初だけ。内容は、とんでもなく奇想天外かつ摩訶不思議な山口晃ワールドな展覧会でした。

油画専攻であるのに日本を題材にした日本画と思わせるような作風。実際、キャンバスに油、水彩、墨を使用した作品もありました。また、ひたすらに細かく正確な描写をしたリモコンとそのリモコンが想像上の宇宙船に変化した図が並んでいる。日本画らしき作品に描かれている馬はよくみるとマシーン。同じ空間では人間と機械の子供が各々お茶を運んでいる。江戸時代の人と現代の人が肩をよせあって笑っている。和と洋、東と西、自然と人工、過去と未来、上下も左右もなく、全て山口晃軸で存在する世界が彼の作品の中に描かれてます。

会場に入ると、まず日本人の誰もが知っている『伝源頼朝図』(京都神護寺所蔵)を模写した『頼朝像図版写し』(1999年)が展示されています。この作品で、圧倒的な観察力とその表現力を我々に見せつけます。また、山口氏はマガジンハウス社の雑誌『Brutus』の美術モノのテーマの時にも、よく登場するのですが、同展覧会に出品されていた『千躰佛造立乃圖』(2009年)は、以前『Brutus』に掲載されていた作品(2009年4月15日号、pp. 38-39)と同じものなのかしら。他にも五木 寛之作(新聞小説)『親鸞」の挿絵、ドナルド・キーン作『私と20世紀のクロニクル』の挿画も多数展示されていました。面白おかしく真面目に歴史や美術を我々に伝える力は、さすがです。その力は、技術や表現力以外に文化を解釈する鋭い分析力があるからではないかと思いました。分析と観察の能力は互いに関連しているような気がします。それらをベースにして遊んでいるから面白い。一方、澁澤龍彦作『菊燈台』の絵では、アーティストとして思いっきり別な顔を我々に見せます。ここまでくると既存の価値観とかどうでもよくなってきます。同展覧会を通して、「自由自在」とは、まさに彼のためにあるような気がしました。最後に、気になる「澱エンナーレ」については、来てのお楽しみということにしておきましょう。

では、今日はこの辺で。

山口晃展 
~付り澱エンナーレ老若男女ご覧あれ~ 
会 期 2013年4月20日(土)- 5月19日(日)
会 場 そごう美術館 そごう横浜店 6階
開催時間 午前10時ー午後8時 (入場は閉館の30分前まで)
※そごう横浜店の営業時間に準ずる。  
休館日 会期中は無休

展覧会関連サイト
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/13/0420_yamaguchi/index.html