貴婦人と一角獣展 国立新美術館 展覧会レビュー

2013 06 28

先日、国立新美術館で開催中の「貴婦人と一角獣展」に行ってきました。ラファエロ展に続き、この展覧会も冗談ではなく「奇跡の初来日」と評判です。

同展覧会の名前にもなっている《貴婦人と一角獣》は羊毛と絹から出来た織物で、現在フランス国立クリュニー中世美術館が所蔵している、6面の連作です(*)。制作場所はフランスともベルギーとも考えられており、年代は1500年ですが、謎の多い作品です。同展覧会の公式サイトによれば、フランス国外にて同作品が展示される事は稀で、今回が2回目だそうです(初回はニューヨークのメトロポリタン美術館)。

この《貴婦人と一角獣》ように人物や装飾を織り出した作品(壁掛け)をタピスリーやタペストリーと呼びます。これらの6面の大きさは、不ぞろいなのですが、一番小さな作品《視覚》でも高さが約3m以上ありますので、そのスケールの大きさは想像していただけると思います。

同展覧会展示の解説によると、当時のタピスリーの制作手順は、まず画家が下絵を描き、それをタピスリーの原寸大の下図(カルトン)に描きおこします。それを元にして工房で製織していきます。経糸(たていと)に対して緯糸(よこいと)を直角に巧みに交差させることによって色の濃淡や輪郭線の強弱をつけながら、下絵を忠実に再現していくという、気の遠くなるような作業を続けた結果、一枚のタピスリーが出来上がります。この工程を理解するとしないとでは、《貴婦人と一角獣》に対する理解度が変わってきます。

今回の展覧会は《貴婦人と一角獣》を学術的に解釈をするために様々な方面から考察する構成になっています。例えば、《貴婦人と一角獣》と同時代のタピスリーや工芸品、《貴婦人と一角獣》の下絵を描いたと考えられている画家(名前は不明)の他の作品などが出品されています。また、会場の一角にある高精密デジタルシアター《貴婦人と一角獣へのオマージュ》もオススメです(上映時間は15分間)。《貴婦人と一角獣》の6面から、描かれている貴婦人や動物達の表情だけを抜粋して、大画面で一列に並べて比較といった、デジタルならではの趣向の凝らした内容となっています。これらを鑑賞してから、《貴婦人と一角獣》をもう一度鑑賞するというのも楽しいかもしれません(同展示会場は鑑賞者が循環しやすい構造になっています)。実際、この作品には謎が多いからこそ、鑑賞者に自由に解釈してほしい、という同展覧会の主催者側の意図もあるのかもしれません。とういわけで、当方の解説はこのあたりにしておきます。

最後に、最近の展覧会全般に言えるのですが、展示作品保護のために会場の室温が通常より低く設定されています。館内よりも会場内の方がより寒く感じますので、ストールを持参するなど鑑賞の際の冷房対策をお忘れなく。

では、今日はこの辺で。

*《触覚》《味覚》《嗅覚》《聴覚》《視覚》《我が唯一の望み》、以上6面の連作。

フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展公式サイト
http://www.lady-unicorn.jp/

フランス国立クリュニー中世美術館所蔵
貴婦人と一角獣展
国立新美術館(東京)
会期     2013年4月24日(水)-7月15日(月・祝)
休館日 毎週火曜日
開館時間 午前10時-午後6時 金曜日は午後8時まで(入場は閉館の30分前まで)

国立国際美術館(大阪)
会期     2013年7月27日(土)-10月20日(日)
休館日 毎週月曜日
(ただし8月12日(月)、9月16日(月)、9月23日(月)、10月14日(月)は開館。9月17日(火)、9月24日(火)、10月15日(火)は休館)
開館時間 午前10時-午後5時 金曜日は午後7時まで(入場は閉館の30分前まで)

レオナルド・ダ・ヴィンチ展 東京都美術館 展覧会レビュー

2013 06 21

現在、東京都美術館で開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」に行ってきました(6月30日が最終日です)。

ラファエロの続きまして、今回もヴァザーリ(1511-74)の『芸術家列伝』に助けてもらいます。ヴァザーリは、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452‐1519)について以下のように書いています。

この上なく偉大なる才能が、多くの場合、自然に、ときに超自然的に、天の采配によって人々の上にもたらされるものである。優美さと麗質、そして能力とが、ある方法であふれるばかりに1人の人物にあつまる。その結果、その人物がどんなことに心を向けようとも、その行為はすべて神のごとく、他のすべての人々を超えて、人間の技術によってではなく神によって与えられたものだということが、明瞭にわかるほどである。人々はそれをレオナルド・ダ・ヴィンチにおいて見たのである(*1)。

ヴァザーリは、彼自身も画家や建築家でもありましたが、文章の巧さに感心します(翻訳もよいのでしょうね)。

話をレオナルドに戻します。ご存知の通り、レオナルドの天才的な能力は、芸術だけではなく医学や科学まで多岐にわたるものでした。今回の展覧会では、《音楽家の肖像》(上記のポスター画像参照)と彼が残した素描やメモをまとめた『アトランティコ手稿』の中の紙が数十点、《女性の横顔と眼の習作》(1490-92年頃)がレオナルド自身の作品として出品されています。他の作品は、レオナルド周辺の作家達やレオナルデスキ(レオナルドの追従者達)によるものです。今回の展覧会は、アンブロジアーナ図書館と絵画館の所蔵作品を通してレオナルド・ダ・ヴィンチがいかに天才だったのか考察する構成となっています。レオナルドのメモ書きやデッサンは興味深いものですし、《音楽家の肖像》は、ただひたすらにレオナルドの技術を見る事に集中するのみでした。そして、この《音楽家の肖像》を縁取る豪華絢爛な額縁も良かったです。

個人的に一番興味があった作品は、作品リストno. 108、ジャック・カロ作《日本における殉教者》(1628年)です。同展覧会の作品解説によれば、フランチェスコ会士ペドロ・バウテイスタを筆頭にフランチェスコ会(5人)、イエズス会(3人)、日本人在俗フランチェスコ会員(17人)が、1597年2月5日豊臣秀吉の命令により長崎で磔刑されている模様を描いています。1627年に教皇ウルバヌス8世の希望で制作されたそうですが、フランチェスコ会の要望によりイエズス会を除く23名の殉教者が描かれています。同作品解説では、日本兵の身なりを「古代風」(あるいは古典風?)と説明していました。作品のサイズが小さいので、肉眼では断言できませんが、いわゆる西洋の古典期(ギリシア・ローマ)の兵士の姿をしているようです。彼らは、十字架に架けられている殉教者達の脇腹を突いています。殉教者は、正面に3人、その背後に3人づつ、列となって十字架に架けられている場面が印象的です。聖書では、キリストと共に2人の犯罪者も同時に磔刑されたと記されています(磔刑後、キリストは兵士によって脇腹を槍で突かれたとも記されています)。よって西洋美術史上で数多くの画家達が描いたキリスト磔刑の場面では、キリストを真ん中にして2人の罪人も磔刑される場面が描かれる事があります。「3」という数字は単なる偶然かもしれません。あるいは、極東の地へ布教に向い命を落とした同朋にキリストの磔刑の場面を重ね合わせたのでしょうか。

というわけで、イタリアと日本の不思議な縁を感じた展覧会でした。

では、今日はこの辺で。

*1 ジョルジョ・ヴァザーリ,『ルネサンス画人伝』平川祐弘・小谷 年司・田中 英道訳, 白水社, 1997, p.139。

ミラノ アンブロジアーナ図書館・絵画館所蔵
レオナルド・ダ・ヴィンチ展―天才の肖像
会場 東京都美術館 企画展示室(東京・上野公園)
会期 2013年4月23日(火)~ 6月30日(日)
時間 9:30~17:30(金曜日は20:00)※入室は閉室の30分前まで
休室日:毎週月曜日

ラファエロ展 国立西洋美術館 展覧会レビュー

出雲の続きをお話する前に、国立西洋美術館で開催中の「ラファエロ」展、終わってしまいましたね。

本来であれば、展覧会開催中にレビューをアップして、参考にしていただけるといいなというのが、このサイトの一つの目的(あるいは目標)なのですが、今回はスケジュール上無理でした。最近の展覧会は、そのまま他の美術館に場所を移すという事もあるのですが、この展覧会は、国立西洋美術館のみの開催でした。残念。しかし、まだ記憶に新しいと思うので、少し感想をお話してみたいと思います。
 
ラファエロ・サンティ(1483年-1520年)は、誰もが認めるイタリア・ルネサンスの巨匠です。ルネサンスの時代が終わっても、ラファエロを手本とした画家達の数は知れず。悪く言えば、「間違いない構図」がラファエロの特徴の一つとも言えるのですが、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロと同じ時代を生きた天才には間違いありません。そのラファエロの作品が日本に23点集まるという事自体が、すでに奇跡のようなものなのですが、その質はいかに?となると実際に展覧会へ行ってみなければわかりません。結論から言えば「よくぞ、これだけ集めた」と思いました。保険とか運送料とかも莫大でしょうし。。聞きなれたキャッチコピーですけれどもやはり「奇跡の展覧会」ですね。
 
前にお話しましたが、エル・グレコが自らの芸術論に関するメモ書きを残した本がジョルジョ・ヴァザーリ著『芸術家列伝』でした。その本のラファエロの章の書き出しが以下の通りです。
 
普通ならば、長い時期にわたって、天が多くの人々にわかち授けるであろう世にも稀な才能やもろもろの美質や限りない宝の数々を、天は時に1人の人間に存分に惜しみなく授けることがある。(*1)
 
その実例の1人がラファエロだとヴァザーリは続けます。天才はエキセントリックな一面がありがちなのですが、ラファエロは温厚で優等生タイプの「天才」だったようです。同展覧会で最初に展示されている『自画像』(1504~1506年)は、物静かで温厚で品のよい青年が我々を見つめています。確かに彼の人柄をよく表現しています。制作年代から21歳頃と考えられるラファエロが我々を見つめています。制作年代からラファエロ21歳頃の作品です。間近で見ると文章では表現出来ないラファエロの「天才ぶり」が色使いやタッチから伝わってきます。展覧会で名品を見る時、私的楽しみの一つに額縁があるのですが、この『自画像』の額縁が実に素晴らしかった。
 
他にも気なった作品は、幾つかあったのですが、彼が描くピンクやブルーは、まさにルネサンスの色でした。これが日本で間近で鑑賞出来る事は有り難かった。しかし、やはり展覧会中にレビューをしないと意味ないなあ。再び反省。
 
今年は、現在開催中の東京都美術館のレオナルド展(6月30日まで)と9月には国立西洋美術館でミケランジェロ展があります。ラファエロ、レオナルド、ミケランジェロという、ルネサンス時代の三大アーティストが上野に集まるというのも、これもまた「奇跡」です。ラファエロ展は、終了してしまいましたが、ヴァザーリの『芸術家列伝』を読んでから、残りの2つの展覧会を鑑賞するというのもありかと思います。
 
では、今日はこの辺で。
 
 *1 ジョルジョ・ヴァザーリ,『ルネサンス画人伝』平川祐弘・小谷 年司・田中 英道訳, 白水社, 1997, p. 165.
 

ラファエロ展
会場  国立西洋美術館
会期  2013年3月2日(土)~6月2日(日)
(現在終了)