プーシキン美術館展 横浜美術館 私的注目作品 その2

現在、横浜美術館で開催中のプーシキン美術館展で個人的に気になった「私的注目作品 その2」です。

今回は、展覧会出品リスト「第2章 19世紀前半(新古典主義、ロマン主義、自然主義)」の作品からピックアップしてみます。まあ、なんといってもこの章の作品の中では、出品番号25、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの 《聖杯の前の聖母》(1841年)が目立ちます。同展覧会では、各章の作品が幾つかの小部屋に展示されている構成になっているのですが、このアングルの作品は、第2章の部屋の入り口に厳かに展示されています。アングルは、女性の肌を美しい陶器の表面のように描くのですが、この作品の聖母の肌こそがアングルならでは女性の肌です。印刷物ではなく、実際に、間近で鑑賞すると一味違います。

前回お話した古典主義のプッサンがフランス人でありながらイタリア(ローマ)に魅せられて移住してしまったように、アングルもイタリアに長期にわたり滞在していたフランス人の画家です。情熱的でドラマチックなバロック、よくも悪くも華やかで軽いロココが17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパの芸術の傾向でした。そして、18世紀後期から19世紀初頭に新しい古典主義「新古典主義」が主流となってきます。

18世紀のヨーロッパでもローマは憧れの地。当時、ポンペイの発掘が行われるなど、考古学的発見も数多くあり、ローマは、考古学者にとっても新古典主義の芸術家達にとっても重要な場所でした。新古典主義の基本的理念は古典主義と変わらないのですが、古典的テーマと当時の政治的テーマが結びつけられた作品が多いことが新古典主義の特徴の一つです。

さて、アングルの師匠は、ジャック=ルイ・ダヴィッドと言われています。ダヴィッドは、新古典主義の中心的存在でした。彼もまたローマとその古代遺産や芸術に魅了されたフランス人の芸術家でした。彼は古代の英雄の犠牲的な闘いや死をテーマにした道徳的な作品を多く手がけました。そして、彼の作品のテーマは、フランス革命が起きた当時の社会的ニーズともマッチしていました。実際、ダヴィッドもアングルもナポレオンのお気に入りの画家でした。

実は、このダヴィッドの作品が、同展覧会で出品されています。出品番号20《ヘクトルの死を嘆くアンドロマケ》(1783年)です。同展覧会の出品リストによれば、第1章 「17-18世紀(古典主義、ロココ)」の部屋に展示されています。この作品、ダヴィッドにしては、タッチが荒い感じがしました。ドラマチックなテーマを抑制した静かなタッチで描いているのは、彼らしいなと思いましたけれども。。

この作品で描かれているヘクトルは、ホメロスによって紀元前8世紀頃語られたとされる古代ギリシア叙事詩『イリアス(イーリアス)』に登場するトロイ(トロイア)の英雄です。前回お話したプッサンの《アモリびとを打ち破るヨシュア》に描かれた聖書の中の英雄ヨシュアと同様、ヘクトルも「伝説の名将」として中世ヨーロッパで人気がありました。このあたりからも、ナポレオンが新古典主義の画家達(ダヴィッドやアングル)を好んだ理由が容易にわかります。

プッサン、ダヴィッド、アングルといった画家の作品を日本で鑑賞出来る機会はあまりないと思いますので、個人的におすすめです。

では、今日はこの辺で。

プーシキン美術館展 フランス絵画300年
公式サイト
http://pushkin2013.com

プーシキン美術館展 フランス絵画300年
会場 横浜美術館
会期 2013年7月6日(土)~9月16日(月・祝)
開館時間 10:00~18:00
(8月、9月の金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日 木曜日(ただし8月1日、15日は開館)

会場 神戸市立博物館
会期 2013年9月28日(土)~12月8日(日)
開館時間     9:30~17:30
(土曜・日曜は19:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日     月曜日
(ただし10月14日(月・祝)と11月4日(月・休)は開館、10月15日(火)と11月5日(火)は休館)

プーシキン美術館展 横浜美術館 私的注目作品 その1

前回の続きです。

現在、横浜美術館で開催中のプーシキン美術館展で個人的に気になった作品をピックアップしてみます。

同展覧会会場は、以前お話しましたように4部構成です。その中の第1章 「17-18世紀(古典主義、ロココ)」では、やはり古典主義の代表的画家であるニコラ・プッサンの≪アモリびとを打ち破るヨシュア≫(1624-25年頃)でしょうね。

古典主義とは、クラシック(古典)時代、つまり古代ギリシア・ローマ時代の芸術を理想とする作品を描く、プッサンと同年代の芸術家達を意味します。古代ギリシアの彫像とえいば、有名な《ミロのビーナス》があります(想像してみてください)。あのように自然と調和する理想的な美が古代ギリシア芸術の本質でした。古代ギリシアと古代ローマも厳密にいえば、異なる価値観をもつ文化です。しかしながら、古代ローマ人たちは古代ギリシアの文化を積極的に取り入れました。その古代ギリシア・ローマ時代の遺産が残り、キリスト教が宗教として勝利をおさめた「ローマ」という土地は、中世ヨーロッパ人にとって特別な意味を持ちました。

しかしながら、古代ギリシア・ローマ時代後、15世紀になるまでヨーロッパで《ミロのビーナス》のような「古典的」な表現の作品は制作されませんでした。その理由は、様々な説がありますが、「古典」が文化や美術から消え去った時代(ヨーロッパ中世)を「暗黒時代」と呼びます。ちなみに建築史では、1000年頃からロマネスク(ローマ式)様式がヨーロッパでは盛んになっていましたので、「ローマ」という概念とそれに対する憧れはヨーロッパでは根強いものでした。

そして、ルネッサンス時代(15世紀から16世紀)、イタリアの画家達は、古代ギリシア・ローマ時代の文化の再生(ルネサンス)を目差しました。その代表的芸術家達が、最近東京で開催された展覧会でも注目された、ラファエロ、レオナルド・ダ・ヴィンチです。その流れは、ヨーロッパ全土に様々な形で広がっていくのですが、エル・グレコを代表とするマニエリスムが生まれる一方で、16世紀後半から17世紀にかけてバロック(時代)という画風がヨーロッパで盛んになっていきます。本当に簡潔に言ってしまえば、「理性」から「感情」へ画家達の表現方法がシフトしていく時代でもあります。このように考えると(東京で開催された)今年前半の様々な展覧会のおかげで、かなりこの流れ(ルネサンス~バロック)に添って、我々は作品を鑑賞してきていますね。

話をプッサンに戻します。前述のようにヨーロッパでバロックが流行の最中、フランス人でありながら、ローマに移住して制作活動していたプッサンは、同地で古代ギリシア・ローマ時代の古典芸術作品に自らの理想の美を見いだだします。というわけでプッサンのような作風の当時の画家達を「古典主義」と呼びます。

≪アモリびとを打ち破るヨシュア≫(1624-25年頃)は、年代的にローマに移住した年(1624年)の直後に描かれたようです。「古典主義」と我々現代人に勝手に評されているプッサンにしては、荒々しいドラマチックな感じの作品です。彼の代表作《アルカディアの牧人たち》(ルーヴル美術館所蔵)の制作年が1638 – 1640年頃ですから、≪アモリびとを打ち破るヨシュア≫を制作していた頃、まだ画家としての方向性を模索中だったのでしょうか。今回の展覧会で出会ったこの作品は、私的にはプッサンらしからぬ作風で新鮮でしたが、彼の技術の高さは十分に理解出来ます。そう考えると、このレベルのプッサンの作品を日本で観ることが出来るのは貴重だと思いました。

では、今日はこの辺で。

プーシキン美術館展 フランス絵画300年
公式サイト
http://pushkin2013.com

プーシキン美術館展 フランス絵画300年
会場 横浜美術館
会期 2013年7月6日(土)~9月16日(月・祝)
開館時間 10:00~18:00
(8月、9月の金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日 木曜日(ただし8月1日、15日は開館)

会場 神戸市立博物館
会期 2013年9月28日(土)~12月8日(日)
開館時間     9:30~17:30
(土曜・日曜は19:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日     月曜日
(ただし10月14日(月・祝)と11月4日(月・休)は開館、10月15日(火)と11月5日(火)は休館)

プーシキン美術館展 横浜美術館 展覧会レビュー

2013 07 12

先日、横浜美術館で開催中の「プーシキン美術館展」へ行ってきました。

同美術館へ行くのは久々だったのですが、いつの間にか美術館の前に商業施設『Mark is (マークイズ)みなとみらい』というのが出来ていました。ショップもカフェも充実していまして、これは美術館へ行くのが一層楽しくなりますね。

さて、今回のプーシキン美術館展の副題が「フランス絵画300年」となっています。この「300年」は、ロシア帝国時代に同国の王侯貴族や商人達が買い集めたフランス絵画コレクションの制作年代、17世紀から20世紀を意味します。そして、これらの作品はソビエト連邦建国時、当時のコレクターを含めた所有者より国に没収され、その後現在のロシア連邦の首都モスクワにある国立プーシキン美術館のコレクションとなりました。つまり、今回の展覧会では、フランス絵画300年の流れを作品を通して楽しみながら理解することが出来ます。

今回の最大の見どころは、フランス印象派の画家ルノワール作《ジャンヌ・マリーの肖像》と言われています(上の画像参照)。確かにそうなのかもしれないのですが、私的に気になった作品は他にもいろいろとありました。

まず、同展覧会の構成ですが「フランス絵画300年」を以下のように4部にわけてありました(*1)。

第1章 17-18世紀(古典主義、ロココ)
第2章 19世紀前半(新古典主義、ロマン主義、自然主義)
第3章 19世紀後半(印象主義、ポスト印象主義)
第4章 20世紀(フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリ)

本当に美術史の教科書みたいな見事な作品構成です。ちなみに前述のルノワールの《ジャンヌ・マリーの肖像》は、「第3章 印象主義」のコーナーにて展示されています。

次回より、各章で私的注目作品をピックアップしてみようと思います。

では、今日はこの辺で。

*1 参考文献(プーシキン美術館展 フランス絵画300年 出品目録 横浜美術館)

 

プーシキン美術館展 フランス絵画300年
公式サイト
http://pushkin2013.com

プーシキン美術館展 フランス絵画300年
会場   横浜美術館
会期   2013年7月6日(土)~9月16日(月・祝)
開館時間 10:00~18:00
(8月、9月の金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日  木曜日(ただし8月1日、15日は開館)

会場   神戸市立博物館
会期   2013年9月28日(土)~12月8日(日)
開館時間 9:30~17:30
(土曜・日曜は19:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日
(ただし10月14日(月・祝)と11月4日(月・休)は開館、10月15日(火)と11月5日(火)は休館)