(前回に引き続き)「ザ・ビューティフル」三菱一号館美術館 唯美主義について

今回も三菱一号館で開催されている「ザ・ビューティフル― 英国の唯美主義1860-1900」についてお話します。同展覧会カタログ(前々回)、ビアズリーとアーサー王(前回)と相変わらず、少し斜め視線で展覧会を振り返ってみたのですが、今回は、同展覧会のタイトルにもある「唯美主義」について考察してみたいと思います。

まず、同展覧会の企画は、英国ロンドンのV&A(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)の「カルト・オブ・ビューティー(美の崇拝)」という展覧会(2011-2012)を三菱一号館美術館用に再構成した内容となっています。三菱一号館美術館館長、高橋明也氏によると、1860年からの40年間の英国の唯美主義の流れに注目した上記のV&Aの展覧会は「世界的にも初めてと言って良いテーマ展」という事です(高橋, 2014, p.8.)。建物も展示作品も(そして同展覧会監修者であるV&A元学芸員スティーヴン・キャロウェイ氏も含めて)全て「唯美主義」のようなV&Aだからこそ企画可能だった展覧会だったと容易に想像出来ます。

少し話は飛ぶのですが、以前お話した森アーツセンターギャラリーで開催されていた「ラファエル前派展」(2014年4月6日終了)と現在三菱一号館美術館で開催されている今回の「ザ・ビューティフル― 英国の唯美主義1860-1900」は、どちらも19世紀半ばの英国の美術作品を紹介しています。前者は、「ラファエル前派兄弟団(ラファエル前派でも可)」が結成された1848年から1890年までのラファエル前派。後者が、タイトル通りの1860年から1900年までの英国の唯美主義。どちらも、当時の英国の芸術にウンザリした若いアーティスト達によって、起こった芸術運動と考えられています。ちなみに「ラファエル前派兄弟団」の結成メンバーでもあるダンテ・ゲイブリエル・ロセッティは、どちらの展覧会でも紹介されており、当時代の英国芸術に焦点を当てているのは確かなのですが、少し混乱するのでここでおさらいしてみます。

まず、「ラファエル前派兄弟団」のアーティスト達がウンザリしていたのが、当時英国で理想の美とされていた盛期ルネサンスの天才ラファエロによって完成された古典的な様式美でした。ラファエロ以前の時代の芸術に理想を求めた彼らは、当時としては「スキャンダル」な画風で数々の名品(例えばミレイの《オフィーリア》)を制作していきます。家族や友人など実在するモデル達を用いた古典的テーマの絵画(キリスト教、神話など)は、あまりにもリアル(現実的)過ぎると非難されました。つまり「ラファエル前派兄弟団」は、新しい美の表現を追求していました。

一方で「唯美主義」のアーティスト達は、生き方そのものに美を追求していこうと模索していきます。当時の英国中流階級の日常生活は、彼らにとって美の欠片もないものでした。今回の展覧会の監修者V&A元学芸員スティーヴン・キャロウェイ氏によると「唯美主義」は、「芸術それ自体に意識的に没入し、過去を意識しつつも現在のために創造された芸術、いいかえれば、ただ美しくあるためにのみに存在する芸術」、つまり「芸術のための芸術」を創造あるいは制作することを目標としていました(Calloway, 2014, p.20)。個人的解釈を含めてさらに簡単に説明するとすれば、「唯美主義」は、常に美と共に生きようとする姿勢とも考えられます。その流れは、文学、思想、芸術と広がっていくのですが、「ラファエル前派(兄弟団)」と同様に世間に受け入れられるまでに時間がかかりました。

生活全てが美になりうると主張する「唯美主義」のアーティスト達の試みは、建物、装飾、家具、食器の日用品までに至りました(ウィリアム・モリスによるアーツ・アンド・クラフツ運動がその一例)。当初は、上流階級だけのものだった「唯美主義」的な日用品も、大量生産可能な商品となり、美と共存する日常生活を中産階級の英国人達も楽しめるようになっていきます。

面白いことに「唯美主義」は日本と無縁ではないのです。今回の展覧会で紹介されていた「アングロ・ジャパニーズ様式の家具」にもわかるように、エドワード・ウィリアム・ゴドウィンなどは、日本の様式美に魅了され、シンプルで魅力的な家具を製作しました。このゴドウィンは、日本でもプリント生地で人気のある英国リバティとも縁があります。現在でも、ロンドンのリージェント・ストリートにはリバティの店舗がありまして、1884年にこの店舗に服飾部門を設立した際のディレクターがゴドウィンでした(Libertyの公式サイトより)。今回の「ザ・ビューティフル」展でも紹介されていた「唯美主義」の作家、オスカー・ワイルドもリバティのファンだったそうです(同上)。

少し長くなりましたが、「唯美主義」は意外と日本人の方々には身近な考え方だと思うのです。だからこそ、アングロ・ジャパニーズ様式の家具が生まれたわけですし。というわけで、以前住んでいたロンドンが懐かしくなるほど、素敵な展覧会でした。

では、今日はこの辺で。

参考文献 

Calloway, Stephen. 2014. 「はじまり:新たな美を求めて(原題:Beginnings: The Search for a New Beauty)」(橋本啓子訳)『ザ・ビューティフル― 英国の唯美主義1860-1900』(展覧会カタログ)東京: 三菱一号館美術館, pp. 22-27.
高橋明也. 2014. 「三菱一号館美術館における『唯美主義』の展覧会開催について」『ザ・ビューティフル― 英国の唯美主義1860-1900』(展覧会カタログ)東京: 三菱一号館美術館, pp. 8-9.

『About Liberty』Liberty (公式サイト)〈http://www.liberty.co.uk/AboutLiberty/article/fcp-content〉(アクセス日 2014年4月18日)
『ラファエル前派展』 (公式サイト) 〈http://prb2014.jp/〉(アクセス日 2014年4月18日).
『ザ・ビューティフル― 英国の唯美主義1860-1900』(公式サイト)〈http://mimt.jp/beautiful/〉(アクセス日 2014年4月18日).

「ザ・ビューティフル― 英国の唯美主義1860-1900」
三菱一号館美術館
開催期間:1月30日(木)~5月6日(火・祝)
開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜日~20:00)
*入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(但し、4月28日と5月5日は18時まで開館。)