ルーベンス 《二人のサテュロス》 〜 アートの聖地巡礼(ドイツ)

ピーテル・パウル・ルーベンスのファンであれば、アルテ・ピナコテークは、間違いなく巡礼すべき聖地だ。

ルーベンスは、バロック期(1600年頃~1720年頃)の代表的なフランドルの画家であり、巨匠と呼ばれるに相応しいかもしれない。

外交官でもあった彼は、大規模な工房を運営して、大作を大量生産していた。いろいろな説があるが、弟子達の描いた作品にルーベンス本人が仕上げをするという工程が通常だったようだ。

となると、どこまでがお弟子で、どこまでがルーベンスが描いたのか、意外と一目瞭然な場合もある。たいてい、描かれている登場人物の顔とか、そのあたりを観察するとわかることが多い。

それにしても、アルテ・ピナコテークには、十分すぎるほどのルーベンスの大作が展示されている

前置きは、これくらいにして、このアルテ・ピナコテークで、ルーベンスの素晴らしさがわかるのは、なんと言っても《二人のサテュロス》だ(*1)。

半人半獣なので「二人」と言っていいのかわからないけれども。ギリシア神話に登場し欲望のままに行動する、どちらかというと「ワル」なキャラクターとして描かれる。

作品の高さは、80cmもない。ルーベンスの他の作品と比較して、それほど大きくない作品と想像していただけるだろう。

サテュロスは、ギリシア神話のワインの神ディオニソスの仲間として描かれることが多い。というわけで、この《二人のサテュロス》では、何とも言えない悪の表情を浮かべ、こちらを見据えるサテュロスの手に葡萄(=ワインの象徴)が握られている。いきいきとした葡萄の表現も見事ながら、その房を潰さないように持っている手の表現に驚く。指の力加減までが伝わってくるようだ。

血の通った顔や皮膚は、精霊とは思えないほどリアル。髭や角にも注目してほしい。これらの表現を見ていると、バロック期とはいえ、フランドル地方の北方ルネサンス期(1400年頃~1540年頃)に活躍したローヒル・ファン・デル・ウェイデンの作品を思い出す。

一方後ろにいるサテュロスは、ただただ、欲望のままワインを飲んでいる。理性的なルーベンスとは思えない自由奔放なタッチだ。宗教画、神話画、歴史画、なんでもござれのルーベンスなのだが、彼のアーティストとしての腕の良さがわかる一品。

(画像は、著者が撮影した、ドイツ、ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク所蔵、ルーベンス、《二人のサテュロス》)